アグリビジネス×農地相続×法人化
農地の相続が今後も増えていくと思われる一方,税金等のメリットを活かすために農地経営の法人化も増えています。
今回紹介するのは,「農地の相続」×「法人化」の組合せが問題となった興味深い裁判例です。
1.農地等納税猶予制度
(1)納税猶予
《イメージ》
被相続人(農業経営)
農地↓相続 …一定の金額に対応する相続税について,納税を猶予する
農業相続人
農業を営んでいた被相続人から,相続人が農地を相続等によって取得し,農業を営む場合には,一定の要件の下に,取得した農地の価額のうち,一定の額に対応する相続税は,相続人が当該農地について農業の継続を行っている場合に限り,納税が猶予される制度(租税特別措置法70条の6)。
農業を継続する意思を持ちながらも,相続税の納付のために農地を手放さざるを得ない事態を減らすための制度。
(2)納税猶予税額の納付
農業相続人が当該農地に係る「農業経営を廃止した」場合等は,納税猶予税額の納付義務が生じる。
2.東京高判令和元年7月17日
(1)事案の概要
・Xが本件農地を相続し,農業を経営
・Xが農地等納税猶予制度の手続
・Xが会社(本件法人)を設立(法人成り)
・税務署は,Xが農業経営を廃止したとして,Xに納税通知
・Xは税額を納付したうえで,過誤納金返還請求訴訟を提起
・原審はXの請求棄却。Xが控訴。
(2)争点:「農業経営を廃止した」か
①判断基準(原審。控訴審も是認)
「農業相続人が農業経営を廃止したか否かは,農地の使用状況,耕作作業の管理・態様,生産物の販売状況,生産物の売上げの帰属状況等を総合的に考慮して,農業相続人の事業としての農業経営を廃止したと評価することができるか否かによって判断すべきである。」
②あてはめ
i. 農地の使用状況
・Xは,本件法人が設立された平成25年6月7日頃,本件法人との間で本件農地を含む土地について賃貸借契約を締結し,その後,本件農地を本件法人に賃貸していた。
・農業のための設備,農機具類,種苗や肥料・農薬等の農耕作業に要する物品等については,遅くとも平成26年5月期においては,Xから本件法人に譲渡され,又は本件法人が新たに購入するなどしていた。
ii. 耕作作業の管理・態様
・本件農地についてはXが実際に耕作を行っていたものと認められる。
・もっとも,この点については,Xが営む農業のために行った場合と,本件法人が営む農業に従事していた場合があり得ることから,この事実をもって直ちにXが農業経営を廃止したものということはできない。
iii. 生産物の販売状況,生産物の売上げの帰属状況
・本件農地における生産物は,平成26年5月期以降,本件法人が販売しており,その売上げは,本件法人に帰属していたものと評価できる一方,Xは,遅くとも平成26年1月1日以降は,本件農地における生産物を販売していなかった。
以上から,農業経営を廃止したと評価できる。