弁護士藤村慎也

弁護士/中小企業診断士/農・林・水・畜産に興味あります(ときたま最新法・試験対策)

アグリビジネス(農業)×法務:労務④(農作業と事故)

横浜地判H19.6.28(判タ1262号263頁)

 

1.事案

草刈作業に従事していた作業員が,他の作業員の刈払機が飛散させた石様の異物が目に当たって失明した事故について,派遣先の元請会社及び下請会社に対し,損害賠償請求した事案

 

2.判旨

裁判所は,国から草刈作業を請け負った元請会社及び下請会社の注意義務について,「国から本件作業を請け負った被告(元請会社)は,これを被告(下請会社)に下請けさせ,被告(下請会社)は,Aを含む複数の人材派遣業者から作業員の派遣を受けて,同作業に当たらせていたものであり,被告らは共同して当該作業員らを指揮監督していたものであるから,被告らは,いずれも原告ら作業員に対し,刈払機が石等の異物を飛散させて生ずる事故の危険性を周知徹底した上,ゴーグルの着用,刈払機による作業場所付近への立入禁止,付近に人がいる際の刈払機の使用禁止等を遵守させて,その安全に配慮すべき義務を負っており,また,作業員を指揮監督していた被告らの従業員には,同様の措置をとるべき注意義務があった」と判旨。

その上で,元請会社及び下請会社の注意義務違反について,「原告は,刈払機の刃で足を切るおそれがあるから刈払機による作業場所には近付かないようにと注意されたのみで,本件作業に伴う事故の危険性については何ら教示されず,ゴーグルの着用や刈払機による作業場所との間に確保しておくべき距離などについて何ら指示を受けないまま本件作業に従事していたものというべきであるところ,安全確保のために注意すべきこれらの点については,被告らが新規入場者教育や安全管理ミーティングなどの機会に周知徹底すべきものであったのに,上記説示のとおり,被告らは,その周知徹底を怠っていたというべきであるから,被告ら及び被告ら従業員には本件義務違反がある」と判旨。

約4800万円の損害額を認定。

 

3.農業法務へのポイント

本裁判例は農作業そのものではありませんが,農作業に近い作業に伴う事故に関する裁判例です。

農業経営者としては,当該農作業に伴う危険性の周知が必要ですし,防護装置が必要な場合などはきちんと手配・指示することも必要です。また,経験の少ない農業従事者に対しては,より的確に危険性を周知徹底することが必要です。

また,派遣先から農業従事者の派遣を受ける場合,農業経営者の指揮監督下にあるものとして,当該派遣労働者に対して直接,安全配慮義務を負担する可能性がありますので,派遣だからといって安全への配慮が軽減されると考えないようにする必要もあります。