アグリビジネス(農業)×法務:労務⑤(農作業と事故)
岡山地倉敷支判H30.10.31判時2419号65頁
1.事案
市との間で,公園等の清掃,草刈り,樹木の剪定,伐採等を作業内容とする労務参加契約(本件労務参加契約)を締結したX1が,山中で木の伐採作業に従事していたところ,別の作業者Zが伐採した木がX1に衝突し(本件事故),高次脳機能霜害を負ったとして,市に対し損害賠償請求した事案
2.判旨
(1) 安全配慮義務違反
① 裁判所は,本件労務参加契約の法的性質について,「雇用契約なのであるから,被告は,本件労務参加契約の付随的義務として,信義則上安全配慮義務を負うものというべきである」と判示しました。
②「安全な樹木の伐採手順等や本件事故前に講習会を実施し,被告は同伐採手順等を認識し得たことからすると,被告は,少なくとも,作業に特に必要な保護具であるヘルメットや呼子を備え,着用させることによって,木の伐採作業の遂行に当たって生じる危険を防止すべき安全配慮義務を具体的に有していたといわざるを得ない。」
「しかるに,被告は作業員全員についてヘルメットや呼子などを用意しておらず,そのため,ヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化していることを容易に認識し得たにもかかわらず,何ら必要な指示,指導を行っていないというのであるから,被告には安全配慮義務違反があったと評価せざるを得ない。」
(2) 使用者責任
木の伐採についてのZの過失について,Xに使用者責任が認められました。
(3) 損害
約1億6000万円の損害認定。
3.農業法務へのポイント
本裁判例も農作業そのものではありませんが,農作業に近い作業に伴う事故に関する裁判例です。
作業従事者との間で「雇用契約」書を交わしていなくとも,労働者に該当するかどうかは,業務従事の指示等に対する諾否の自由,業務遂行上の指揮監督,時間・場所の拘束性等の要素を考慮して判断されます。
労働者に該当すれば,使用者には,より直接的に安全配慮義務が認められると考えられます。
ですから,作業従事者との間の契約書の名前に左右されることなく,農業経営者としては,防護装置や呼子の備えなど,必要な危険防止措置を講じることが必要です。