弁護士藤村慎也

弁護士/中小企業診断士/農・林・水・畜産に興味あります(ときたま最新法・試験対策)

労働法:「待機時間」と労働時間

1.問題

待機時間や不活動時間といわれる、実作業を行っていない時間(休憩時間や仮眠時間など)が労働時間にあたるか。

実務上、割増賃金(残業代)の請求にあたり、この時間が労働時間としてカウントされるか、という局面で問題になることが多い。

2.最高裁

最高裁は、労働からの解放が保障されているといえるか(解放が保障されているなら、労働時間にあたらない)という基準を示している(大星ビル管理事件最判H14.2.28)。

3.裁判実務

この点がよく問題になるのは、休憩時間や仮眠時間であっても、事実上の場所的拘束性が伴う職種、例えば、警備員やトラック運転手などである(警備員であればビル内で、運転手であれば車中で、事実上、休憩・仮眠を取らざるを得ないケースが多い)。

裁判実務では、①休憩時間や仮眠時間の設定の有無、②時間的・場所的拘束性の強弱(制服の着用や鍵・携帯電話等の携行品の指定、外出を含む自由行動の範囲、緊急時の対応の義務付け(マニュアルや業務命令の有無)、規律に反した場合のサンクション(制裁)の有無など)、③実際の勤務実態(緊急対応等の必要が皆無に等しいか=頻度)という要素を中心に判断されている。

実際の裁判例では、②時間的・場所的拘束性ありとして、休憩時間や仮眠時間は労働時間にあたるとされるケースも多いので、③実際の勤務実態として、緊急対応が迫られる頻度が限られている(この点は業務日報で立証する)といった主張立証も重要になってくる。

警備員や運転手のケースで、待機時間が労働時間にあたらないと判断された近年の裁判例としては、少数であるが、H27.8.10大阪地判(路線バス運転手の仮眠時間)、H26.6.10東京地判(警備員の休憩・仮眠時間)、H25.2.13仙台高判(警備員の休憩・仮眠時間)がある。なお、この場合でも、休憩・仮眠時間中に緊急対応などの実作業を行ったことが立証できる場合は、労働者側はそれに対する賃料請求は可能である。

4.労働時間管理

以上のとおり、使用者側とすれば、労働時間管理の方策として、仮眠時間中に物理的に緊急対応を迫られる体制(例えば、一人24時間勤務体制の警備)を解消することに加え、仮眠・休憩時間中のマニュアルの内容をよく精査し、可能な限り労働者の拘束性を解くことが必要である。