弁護士藤村慎也

弁護士/中小企業診断士/農・林・水・畜産に興味あります(ときたま最新法・試験対策)

アグリビジネス(農業)×法務:労務①

 

H30.11.9水戸地判

 

技能実習生が,大葉栽培の個人農家との間で耕種農業・施設園芸を内容とする雇用契約を締結していたところ,勤務時間後に大葉巻き作業を行ったとして,残業代等の支払いを求めた事案

 

 【判旨】

争点1(勤務時間後の大葉巻き作業は,雇用か請負か)

大葉巻き作業が使用者による指揮監督下において行われたか否かによって判断すべき。

 

日中の大葉の摘み取り作業が終わった後に大葉巻き作業を行っていた点と,作業場所も違う点から,両作業は区別されており,形式的には雇用契約の対象には当たらない。

 

しかし,作業内容が雇用契約において作業内容とされていた大葉の摘み取りと密接に関連しており,大葉巻き作業をするに当たり諾否の自由が事実上制限された状態にあったものであって,作業時間についての裁量性も乏しいものであるなどの事情を考慮すれば,使用者の指揮監督下で行われた作業であるというべきであって,雇用契約に基づいてされたものと認めるのが相当である。

 

争点2(労働時間及び未払の賃金額)

大葉巻き作業の時間を記録したものや,大葉巻き作業の様子の動画(提訴後の撮影)をいずれも排斥した。

他の技能実習生が和解した残業代の基準から1時間当たりに巻く大葉の束の数を算定した。

 

争点3(付加金)

付加金の支払い命令*も認めた。

 

*付加金:使用者が割増賃金(残業代)等を支払わなかった場合,裁判所が未払分と同額の「付加金」の支払いを命ずることができる制度(労基法114条)。シンプルにいえば,割増賃金の倍額の支払いが命じられる可能性があるということ。

 

【コメント】

農業は天候・季節等の自然条件に強く影響されるため,農業従事者の場合,労働時間規制に関する労基法の規定は適用除外となっている(労基法41条1号)。ただし,深夜業については適用される点と,技能実習生に対しては,労働時間規制に準拠することとされている点に注意が必要。

そのため,本件においても,残業代は,労基法37条ではなく,雇用契約に基づき算定されている。

上記の適用除外の影響もあり,農業分野において,残業代請求の可否の線引きや,労働時間を立証するための証拠が,使用者・労働者ともに不足している点が課題である。