弁護士藤村慎也

弁護士/中小企業診断士/農・林・水・畜産に興味あります(ときたま最新法・試験対策)

所有者不明土地×民法・不動産登記法改正

2021年2月2日,法務省の法制審議会で,「民法不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。

 

法務省:「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」(令和3年2月2日開催決定)

 

所有者不明土地の改善・活用に向けた法改正の内容になっています。

注目したのは次のとおりです。共有物の分割や相続の場面で気を付ける点が多いです。

 

①共有者が所在不明の場合,裁判所に対し,所在が明らかな共有者の全員同意で,共有物の変更請求ができる。

不動産の売却が典型例ですね。

 

②共有者が所在不明の場合,裁判所に対し,所在が明らかな共有者の持分価格の過半数で,共有物の管理決定できるよう請求ができる。

不動産の賃貸が典型例ですね。

 

③不動産の共有者が所在不明の場合,裁判所に対し,所在不明な共有者の持分を取得させるよう請求できる。

共有者から不動産の持分を取得するということですね。

 

④裁判所は,利害関係人の請求により,所有者不明土地の管理人を選任し,管理人による管理命令ができる。

不在者財産管理人に近しいですね。

 

⑤相続開始時から10年経過後の遺産分割については,特別受益寄与分の規定は適用されない。

10年以内に遺産分割協議に入るようにという趣旨ですね。

 

⑥相続登記の義務付け

不動産の登記名義人に相続が発生した場合,知った日から3年以内に所有権移転登記の申請を義務付け。違反者には10万円以下の過料。

所有者不明土地の原因である相続の場面で登記変更を促進させようという趣旨ですね。

アグリビジネス×改正種苗法

2020年12月2日、参議院本会議で改正種苗法が可決、成立しました。

日本のブランド作物などの種や苗木が海外流出するのを防ぐのが主な狙いです。

日本の農業界ではかなり話題になっています。

 

そこで、改正種苗法について、3回に分けて解説してみます。

 

1回目は、種苗法とは?

 

1.種苗法とは

 

簡単にいうと、

・今までにない新しい品種を開発した場合に、その品種の開発者は種苗法に基づき品種登録を受けることができます。

・登録品種は、一定期間に限り保護されます。

というものです。

 

2.品種の開発~登録

 

品種の開発~登録までの流れは、ざっくりと以下のとおりです。

 

(1)品種の開発・育成

 ↓

(2)農水省に出願

 ↓

(3)品種登録

→「登録品種」となり、「育成者権」が発生する(原則25年、果樹等は30年)

 ①登録品種を独占的に利用する権利が発生します(種苗を生産・販売したり、農協や種苗会社に利用許諾したりできます)

 ②正当な権原なく事業として利用する者に対し、その利用を排除できる権利も発生します(差止めを請求したり、損害賠償を請求したりできます)

 ③原則25年で消滅します(「一般品種」となり、誰でも自由に使うことができます)

 

(特許は20年ですが、特許権に近いですね)

 

3.イチゴの「さぬき姫」だと?

 

具体例でみてみます。

わが故郷・香川県の代表的登録品種であるイチゴの「さぬき姫」。

丸みがあって、見た目がとても可愛らしい、スーパーでもよく目にするイチゴです。

 

農水省の「品種登録ホームページ」で検索すると・・・。

 

登録品種の名称:さぬき姫

登録年月日:2009/02/24

育成者権の存続期間:25年

品種登録者:香川県

 

などの情報が公表されています。

特許とは異なり、都道府県が一定開発し、出願しているのが特徴的です(2018年出願件数ベースで全体の約10%)。

 

1997年に「三木2号」を育成し、1999年に交配を行い・・・といわれていますので、品種登録まで約12年かかっていることになります(大変なご努力です)。

 

以上が、現行法の説明です。

では、現行法にどんな課題があったのか。第2回に続きます。

東証売買システム×システム障害②

11月30日,東証の株式売買システム(富士通社製)の障害で全取引が終日停止した件で,JPX(日本取引所グループ)の独立社外取締役による調査委員会の調査報告書が公表された。

 

独立社外取締役のみを構成員とする委員会であること,第三者委員会の費用が役員の責任追及訴訟や株主代表訴訟で損害として請求されることもあることを意識し,取締役の手当を抑制するとともに金額を公表したことは興味深い。

 

システム障害発生の原因については,概要,以下のとおり評価している。

 

①システム障害の直接的な原因は,NAS(共有ディスク装置)に搭載されているメモリカードの故障により,当該メモリカードの記憶領域へのアクセスが不可となり,メモリカード全体が機能不全に陥ったとみなされたことである。この点につき東証の対応に問題があったとは認められない。

 

②NAS2号機への即時の自動切替えが行われなかった。その原因は,富士通の作成したNASの製品マニュアルにおける設定の記載に実際の仕様との齟齬があり,マニュアルに記載された誤った内容に基づいてNASの設定が行われていた。富士通に帰責性があるといわざるを得ない。

本番稼働前テストにおいてNAS本体の機能停止という状況を再現した障害テストは実施されていない。当該テストの実施を富士通に求めておくべきであったとも言いうる。東証にも一定程度の責任があったと考えられる。

 

NASの自動切替えが正常に行われずに手動切替えを余儀なくされることを十分に想定しておらず,そのような場合への対抗措置の事前検討が不十分であった。他社においても二重化装置の(自動)切替えが機能しないことにより大規模・長時間の障害が発生するという事象が複数発生していることが報道されていることを踏まえると,手動切替えが必要となった場合の富士通における対応措置の検討には不十分な点があったと評価せざるを得ない。

 

②の原因について富士通の責任が大きいとし,③についても富士通の事前対応に十分でない点があったと結論付けている。

 

②は本番稼働前にいかなるテストケースを想定すべきだったのか,③は他社での障害事例を教訓として具体的に予見できたのか。もしシステム障害に関して責任が問われるとすれば,この点は争点になるであろう。

ランサムウェアと情報漏えいの責任

先週,ゲーム大手・カプコン不正アクセスによるシステム障害が発生したことが判明した件で,ランサムウェアに感染し,身代金として11億円相当の仮想通貨の支払いを要求されたことが報道された。

 

ランサムウェア(ランサム(身代金)×ソフトウェアの造語)による被害とは,ファイルの暗号化や画面ロック等を行うランサムウェアに感染させ,PCやスマートフォンに保存されているファイルを利用できない状態にされ,復旧と引き換えに金銭を要求されるもの。

 

IPA情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2020」では,ランサムウェアによる被害は,組織部門の第5位(昨年は第3位)とされている。

 

手法は,メールの添付ファイルやメール本文のリンクを開かせたり,改ざんしたウェブサイトを閲覧させてランサムウェアに感染させる手口が知られている。

 

予防策としては,基本的なことであるが,受信メールやウェブサイトの十分な確認,添付ファイルやリンクを安易にクリックしない,サポートの切れたOSの利用停止,移行等が言われている。

 

近年は,盗み出した個人情報や機密情報をネット上で暴露するケースも増えており,今回のケースもそれにあたる。

 

情報セキュリティの法的側面に関していえば,情報を預かる会社は,情報漏えいの防止措置を講じていたかが問われることになる。大手教育事業会社の情報漏えい事件では,多くの裁判が係属し,高裁レベルでも会社の敗訴判決が出ているところである。

sflawyer.hatenablog.com

 

また,現在,情報セキュリティの構築は,取締役の内部統制構築義務の一内容を構成しているといって良い。情報漏えいが起きれば,役員は消費者や株主から責任追及されかねない。

IPA「情報セキュリティ10大脅威 2020」等で指摘されている予防策は押さえ,PDCAを回すことが実務上必要である。

 

今回のケースでは,感染・漏えい経路を解明したうえで,その予見可能性が法的責任の判断にあたって重要なポイントになると考えられる。

東証売買システム 損害賠償請求はあるか

10月1日に,東証の株式売買システム(富士通社製)の障害で全取引が終日停止した問題。

 

東証は,富士通に損害賠償を求めないとの考えを示したといわれている。

 

思い出されるのが,ジェイコム株式誤発注事件(東証vsみずほ証券)。

 

みずほ証券が,ジェイコム株式を「61万円1株」と売り注文すべきところ,誤って「1円61万株」の売り注文をし,取消し注文を発したが,東証のシステムがこれを受け付けなかったという事案。

みずほ証券は415億円を損害賠償請求し,東証に107億円の損害賠償義務が認められた。

この訴訟の中で,富士通が開発した売買システムのバグの有無が争点になった。

東京高裁では,法律・ITの専門家の意見書の撃ち合いになった。

結論は,東証と取引参加者契約を締結するみずほ証券には,「重過失」免責規定が適用されるところ,システムに重過失にあたるバグはなく,東証の売買停止義務違反というオペレーション上の重過失のみが認められる結果となった。

 

さて,今回のケースで,投資家が損害賠償請求するか。

一般の投資家には,取引参加者契約は適用されないだろうから,「重過失」免責という高い壁がなくなるのかどうか。

いずれにしても,東証の調査結果が出るであろうから,その結果次第で,損害賠償請求が起きるかもしれない。

 

アグリビジネス×農地相続×法人化

農地の相続が今後も増えていくと思われる一方,税金等のメリットを活かすために農地経営の法人化も増えています。

今回紹介するのは,「農地の相続」×「法人化」の組合せが問題となった興味深い裁判例です。

 

1.農地等納税猶予制度

(1)納税猶予

 

《イメージ》

被相続人(農業経営)

 農地↓相続 …一定の金額に対応する相続税について,納税を猶予する

農業相続人

 

農業を営んでいた被相続人から,相続人が農地を相続等によって取得し,農業を営む場合には,一定の要件の下に,取得した農地の価額のうち,一定の額に対応する相続税は,相続人が当該農地について農業の継続を行っている場合に限り,納税が猶予される制度(租税特別措置法70条の6)。

 

農業を継続する意思を持ちながらも,相続税の納付のために農地を手放さざるを得ない事態を減らすための制度。

 

(2)納税猶予税額の納付

 

農業相続人が当該農地に係る「農業経営を廃止した」場合等は,納税猶予税額の納付義務が生じる。

 

2.東京高判令和元年7月17日

(1)事案の概要

・Xが本件農地を相続し,農業を経営

・Xが農地等納税猶予制度の手続

・Xが会社(本件法人)を設立(法人成り)

・税務署は,Xが農業経営を廃止したとして,Xに納税通知

・Xは税額を納付したうえで,過誤納金返還請求訴訟を提起

・原審はXの請求棄却。Xが控訴。

 

(2)争点:「農業経営を廃止した」か

①判断基準(原審。控訴審も是認)

「農業相続人が農業経営を廃止したか否かは,農地の使用状況,耕作作業の管理・態様,生産物の販売状況,生産物の売上げの帰属状況等を総合的に考慮して,農業相続人の事業としての農業経営を廃止したと評価することができるか否かによって判断すべきである。」

 

②あてはめ

i. 農地の使用状況

・Xは,本件法人が設立された平成25年6月7日頃,本件法人との間で本件農地を含む土地について賃貸借契約を締結し,その後,本件農地を本件法人に賃貸していた。

・農業のための設備,農機具類,種苗や肥料・農薬等の農耕作業に要する物品等については,遅くとも平成26年5月期においては,Xから本件法人に譲渡され,又は本件法人が新たに購入するなどしていた。

 

ii. 耕作作業の管理・態様

・本件農地についてはXが実際に耕作を行っていたものと認められる。

・もっとも,この点については,Xが営む農業のために行った場合と,本件法人が営む農業に従事していた場合があり得ることから,この事実をもって直ちにXが農業経営を廃止したものということはできない。

 

iii. 生産物の販売状況,生産物の売上げの帰属状況

・本件農地における生産物は,平成26年5月期以降,本件法人が販売しており,その売上げは,本件法人に帰属していたものと評価できる一方,Xは,遅くとも平成26年1月1日以降は,本件農地における生産物を販売していなかった。

 

以上から,農業経営を廃止したと評価できる。

 

マイナンバー×改正:預貯金口座

昨日,「マイナンバーのひも付け義務化,1口座に」というニュースが流れました。

政府は,来年の通常国会マイナンバー法の改正案を提出することを目指しているようです。

 

ポイントは,本当に「義務化」されるか,でしょう。

 

さて,現在,預貯金口座にマイナンバーが紐づけられているのは,どのような場面でしょうか。

金融機関が顧客のマイナンバーを取り扱っている,以下の場面です。

投資信託等の取引に際して税務署に提出する法定調書の作成のため,顧客からマイナンバーを収集し,取り扱う

②顧客の税務調査や年金事務所による資産調査,預金保険機構によるペイオフのための残高調査に際し,税務署や年金事務所等から問合せがあった時に対応できるよう,預貯金口座の開設時等に顧客からマイナンバーを収集し,取り扱う(この②を一般に,「預貯金口座の付番」と呼んでいます)

 

今回のニュースで流れたのは,コロナ禍を契機として,災害時の給付金の支給等を簡易にする目的での預貯金口座とマイナンバーの紐づけのようです。

とすれば,金融機関に届け出るというよりは,住民が地方自治体に,預貯金口座とマイナンバーをセットで届け出るということを想定しているのかもしれません。

 

マイナンバー法の改正の際に常に議論に上がるのは,個人に提供を「義務付ける」かどうかです。

上記②の預貯金口座の付番においても,顧客が金融機関にマイナンバーを提供することは義務ではなく,任意とされています。

 

今回のニュースのタイトルでは「義務化」と書かれているものもありますが,記事を読むと「任意」とも読めます。

「義務化」の壁は高いので,本当に提供が「義務化」されるのか,提供の方法をどうするのか,マイナンバーを取り扱う金融機関の将来的な実務にも影響を与える可能性があるので,要注目です。